デビュー戦 『タックルこそが』

2017/06/24

 初試合。それは全てのラグビー人にとって、人生で一度きりの記憶。まだほとんど覚えていないルール。入学後にうっかり選んだスポーツは、格闘球技と呼ばれるものだった。タックルもブレイクダウンも、なんとなく形の練習をしたにすぎないから、怖いようでいてどれくらい怖いかも痛いのかも、実は分からない。不安と同居する「いよいよだな」のドキドキは、心が喜んでいることの表れだ。初めての「試合前夜」、初めての「試合日の朝」。時が経った後に分かるのだが、この前後の感覚もラグビーの楽しみの一つだろう。6月24日。1年生デビュー戦、平塚学園戦が行われた。


 キックオフ前に話をした。「ラグビーはたくさんのミスが出るスポーツだということ」「ボールを持ったら自由であること」そして最も大切なこととして、「ラグビーではタックルできる人間が最も高く評価され、信頼を得ることができるということ」。

 ラグビーはボールを持ったらパスでもステップでもぶちかましでも、自分の得意なプレーを選べばよい。個性を活かす。自由を大胆に体で表現する。しかし、ボールを持った相手が向かって来たらやるべきことは一つしかない。タックル。そう、タックルで倒す以外に他の手段はないのだ。

 
 もしかしたら痛い思いをするかもしれない。ケガはしたくない。「組織
DFをしているフリ」をして、上手にタックルを仲間に任せることも実はできる。「刺さるのか」「ごまかすのか」「逃げるのか」、決断を1秒も待ってくれない局面がたびたび訪れる。そう、ラグビーのゲームでは、いちいち自分という人間が問われるのだ。

 だからこそ、タックルできる選手は人間としての信頼を勝ち得るのだ。日常生活でイジられキャラだったとしても、アタックでボールをほとんどキャッチできないほど不器用だったとしても、タックルができればそれだけで何をも上回るリスペクトの対象となる。責任感と勇気、己の人格をたった1秒で証明できるのが、タックルなのだ。


 

 逆にタックルができない人間はどれほど華麗なプレーを披露しようと、どれほどチームの問題について雄弁に発言しようと、「でもあいつタックルはしないから・・・」という評価になってしまう。人に言われなくても自分が一番分かっているから、ゲーム後の爽快感も半減する。

「このゲームが終わった帰り道や明日のオフ、気分爽快で過ごせるのか、それとも逃げてしまった自分への悔しさを抱えて過ごすのか。それを決めるのがタックルだ。さぁ、今からのゲームでこのチームナンバーワンのタックラーを目指してみよう!」と送り出した。

 ゲーム前の当たり前の光景。「ピッ!」レフリーの合図でキャプテンを先頭に一列を作ってグランドに駆け込む。とはならなかった!何しろ先輩たちのゲームすら一度も見たことのない1年生だから、なんと列など解体してみんな自由にグランドに駆け込んだのだ。これには平学ベンチも全員が驚き、微笑んだ(油断を誘えた?)。

 そんな笑みが溢れるキックオフ前となったが、ゲームは双方が熱を発し、非常に引き締まった好ゲームとなった。


 「タックルの意味」で焚き付けられた平工メンバーは、期待どおりキックオフからノーサイドまで、気持ちの入ったタックルを次々に連発した。

 アタックでは「FWで縦に崩してBKに展開」「隙をついてのスピードピックゴー」など、こちらの想像をはるかに超える見事なアタックも見られた。


 

 最終スコアはトライ数「3対1」で勝利。ケガ人の影響で助っ人参加した2年生の2人が活躍した影響も確かにあるが、ゲンキのアグレッシブな突破、ショウゴの鋭いラン、ヨシキの献身的(本能的)タックル、他にも数え切れないほどそれぞれが個性を発揮した。上級生に聞いても「練習試合でも公式戦でも、平工が勝った記憶は過去にありません」と言うのだから、1年生試合とはいえ平工ラグビーの歴史に刻みこまれた価値ある勝利だ。

カイ(ゲームキャプテン)

『私は初めて15人制ラグビーをやってみて、ここまで心の底から嬉しく、達成感のある事は初めてでした。

この感情をくれたのが仲間たち一人一人で、皆が仲間のために体をはってタックルして、そのタックルが次の仲間の攻撃に繋がる。私はこの言葉はラグビーにぴったりだと思いました。

1人はみんなのために、みんなは1人のために」私はラグビーを初めてやってこの15人制ラグビーで初めて「仲間」と言う言葉がどういうものなのかを感じさせられました。

今回の試合では私は全く皆のために貢献できていなかったと思うので次の大磯高校との試合でもっと仲間のためにプレイできるプレイヤーになりたいです。』


ソウタ

『練習どおりにはいかないことがいくつかあった。V1V2がすぐにつくれなかったりタックルはしたけど相手を倒せなかったりした。この反省点を練習で改善していこうと思いした。』


 

 タッチフットやなんちゃってセブンスを経て、ついに本物のラグビーの足を踏み入れた。まだまだここはラグビーの入り口から一歩目にすぎない。「俺の高校時代はもうラグビーでいく!」と腹をくくることができれば、人生の宝となる掛け替えのないものをたくさん手に入れることができるはずだ。歓喜、絆、涙、叫び、愛情、魂、プライド、葛藤、今までの人生で味わうことができなかった深いものたちと出会い、きっと新しい自分になれる。

『青春とは 意気であり 感激であり かえりみる微笑みである。』

日本ラグビー界の宝 故・大西鉄之助の言葉だ。

 遊びやバイトでは経験できない崇高なものを目指すのだから、時にはしんどい日もあるだろう。まずはこの夏を乗り越えよう。仲間とともに。笑顔を大切に。