田邊選手によるZOOMセミナー開催 『人としての姿勢』

2020/05/31

 新型コロナによる登校自粛期間もすでに3ヶ月以上が経過した。県外では登校や部活動が再開しているが、神奈川県立高校を取り巻く状況は日本で最も厳しい。緊急事態宣言解除とほぼ同じタイミングで県教育委員会から出された通達は、他県や県内私立高校とは全く異なるほど長く厳しい今後の自粛継続を求めるものだった(ただし解除が前倒しになる可能性はあり)。
 「俺たちはいったいいつになったらラグビーできるのか・・・」そんな重苦しい空気を吹き飛ばすかの如く、とても幸運な機会に恵まれた。5月30日、アルタイルズに対して、実績抜群の有名現役プロ選手による個別ZOOMセミナーが開催された。


 講師は田邊秀樹さん。啓光学園で高校日本一、高校日本代表副キャプテン、進学先の早稲田大学でも主力で大学日本一。卒業後は神戸製鋼でプレー。現在は移籍先の日野自動車レッドドルフィンズで活躍する現役プロ選手だ。
 私にとって大学ラグビー部の後輩ではあるが、年がかなり違うのでほぼ面識はなかった。実は3年前、私が平工に赴任して校内掲示用の勧誘ポスターを作製した際、イケメンスター選手という理由で田邊さんの写真を使わせてもらっていた。そのときに「写真使わせてもらいます!」とSNSでコンタクトした程度の関係。今回もSNSでセミナー開催の可能性がある記事を目にし、恐れ多くも飛び込みのようなメッセージを送り、快諾してもらって実現した。

3年前の校内ポスター(右が神戸製鋼在籍時の田邊さん)

 セミナーは35分×2本で行われた。前半のテーマは「役割と強みの認識と発揮」。田邊さん自身の経験に基づくもので、ラグビー選手としてだけでなく、将来職場などでも生きる大切な内容だった。
後半は「アルタイルズの課題」について。1週間前に新人戦の映像を1試合丸ごとチェックしていただき、ある一つのポイントについて5カットの映像を抽出。ZOOMの画面共有機能で実際の試合の映像を見ながら、丁寧に解説をしていただいた。指摘していただいたポイントは、アルタイルズ(もしくは私)の最大の欠点をズバリ。薄々気づきつつも、指摘されなければまた同じことを繰り返していたに違いない。チームとして一皮二皮むけるきっかけとなる素晴らしい収穫をいただくことができた。
 オンラインという環境だったが、ZOOMのブレイクアウトルーム機能で少人数トークと全体発表あり、質疑応答あり、画面共有あり。田邊さんが話す割合と部員たちが話し合ったり発言する割合もおそらく最適で、35分×2とは思えない実りあるセミナーとなった。


田邊秀樹さん
『日野レッドドルフィンズの田邊秀樹です。今回はオンラインセミナーという形でこういう機会を与えていただきありがとうございます。不慣れなところもあってご迷惑をおかけしましたがアルタイルズの選手達の学ぶ姿勢に私自身も気づきがたくさんありました。
次は是非学校にも行かせていただいて一緒に練習したいです。ありがとうございました。』

コウスケ
『今日は田邊秀樹さんにZOOMセミナーをやっていただきました。セミナーのテーマは「役割と強みの認識と発揮」「目に見えないスキル」でした。今回のセミナーではとても基本的な事から細かく丁寧に説明や解説をしてくれて、とても分かりやすかったです。今回僕が最も印象に残った言葉は「答えは、相手が持っている」です。この言葉には、ラグビーの全てが詰まっているような気がしました。またラグビーは僕を成長させてくれる最高のスポーツだと田邊さんに再確認させていただきました。今回は本当に貴重な体験をありがとうございました。』

リョウ
『田邉さんのzoomセミナーをやって、とてもいいことを学べたなと思いました。自分の役割はチームをまとめることをなので、その役割を果たせるようにこれから頑張っていこうと思います。今回はアタックのことだったので、また機会があればディフェンスのことも教わりたいです。本当に貴重な時間をありがとうございました!』

ショウタ
『今回は田邉選手に貴重な時間をいただきZOOMセミナーをやってもらいました!2つのお題に対して話してくれました。自分の役割を探す、その役割をチームに認めてもらうっておっしゃっていたので自分でも探そうと思います!DF,ATで大事なことを学び、個人質問にも丁寧に分かりやすく教えてくれました!また機会があれば教わりたいです!』


 ゲストコーチをお願いするとき、もちろんラグビー自体も教えてもらいたいと思っているが、最も大切にしているのは「素敵な大人を感じてもらうこと」だ。「あの人カッコいい」は自分を変えるリアルな原動力になる。ラグビーの経歴や能力ではなく、人間として魅力を放つ大人を紹介したい。そういう面では、今回はオンラインだったのが残念だが、オンラインだからこそ分かった魅力を最後に。

 このセミナー開催が決まったとき、「田邊さんの話(考え)を聴講するセミナー」と思っていた。「あらかじめ少し打ち合わせできますか?」というメッセージが来たので、電話で「ご挨拶と流れの確認を5分くらいかなぁ」と思っていた。田邊さんの素敵な人間性が失礼ながら十分には分かっていなかった。
 
田邊さんからのリクエストで電話ではなく対面となるZOOM使用となった打ち合わせでは、長時間かけて実際のセミナーの内容を最初から最後まで全て確認し、こちらの希望や考えとすり合わせを行っていただいた。まさか日本一をずっと経験して生きてきたスター選手が、県大会初戦もくじ運次第という私たちのゲーム映像を1試合丸ごとチェックしてくれて、課題を絞って自分たちのゲームの映像レクチャーまでしてもらえるとは思っていなかった。


 そして何より驚いたこと。それは、セミナー開催前日になって打ち合わせしていた内容を大きく変更したことだった。当初の内容は田邊さんが元々しっかりと作り上げ、まとまった内容だった。ところが打ち合わせの後日、アルタイルズのホームページを入念にチェックしたり、私とのラインによる情報交換を通じて、内容を全部作り変えてくれたのだ。セミナー当日の内容は、アルタイルズの現状とこちらのリクエストに応じて、ばっさりと見事に変わっていた。この事実に大きな感動を覚えた。
 セミナー終了後、田邊さんはセミナーのフィードバックを部員たち全員に求めた。自分自身が成長するために、そんじょそこらの高校ラグビー部員に自分のパフォーマンスに対する評価を求める。そんな向上心は間違いなく部員たちに、さらによい影響を与えたことだろう。

 今回は人間力がどうこうといった「人としての姿勢」を教授してもらう内容のセミナーではない。しかし私たちが学ばせてもらったことは、素敵な人間がさらりと見せた、まさに「人としての姿勢」だった。

 決断・行動・度胸・傾聴・変化・向上心。コロナが明けたらそんな田邊さんと部員たちが今度はグランドで生で会う機会があれば。そう心から願ってしまうような、素晴らしい経験となった。