県総体セブンスブロック優勝 『真の感情』

2019/05/04

 喜び、悔しさ、胸の高鳴り、失望、感動、怒り、安堵。本気で物事に打ち込んだ者だけが味わうことのできる素敵な感情だ。それらは誰かに与えられるものではなく、自分の意志と責任の下に勝負した者だけが得られるものなのかもしれない。

 4月の関東大会、ノーシードの強豪である横須賀総合高校と対戦し、実力差をはるかに凌駕する接戦を演じた。後半10分過ぎ、スコアは「0-5」。敵陣ゴール前5mまで迫った。このエリアでトライを取るための準備は十分にしてきた。そのオプションに自信はあった。しかしその10秒前、必殺オプションの軸になるタカノリが負傷し、グランドに倒れていた。準備していたプレーは出せず、そのチャンスを逃した。終盤にエアポケットのような気の緩みをつかれ追加トライを許し、「0-10」で大金星を逃した。
 タラレバばかりが頭に浮かぶ敗戦。負傷中のキャプテンがゲームに出ていたら…、タカノリがあの場面で倒れていなければ…。残す3大大会は、秋の花園予選のみとなった。

「ちゃんと悔しがろう」
 ゲーム後の円陣でコーチの金本がそう言った。ズバッと核心をついた言葉だった。翌日のミーティングで配った提出資料に、ある選手がこう書いた。「プライドがない」。これもど真ん中を射抜いていた。
 2年前に部員6名で始動したアルタイルズ。1年生を加えて15人でゲームができるようにはすぐなったものの、正直勝てる相手などほぼなかった。組織が活力を失わぬよう、どれだけ負け続けても、ポジティブに評価できる部分を探して共有した。「次!これから!」目線は前に向け続けた。だからこそ組織として着実な進化は遂げたし、結果もある程度は出すことができた。

 しかし同時に、「負け慣れ」もクラブに染みついていった。「次頑張ろう」は、目の前の敗戦への絶望や悔しさをごまかした。地にひれ伏せるほどの悔しさや不甲斐ない自分への絶望が、明日から努力の鬼と化す原動力となるはずなのに。
 鎌田組になって何度か感じたことがある感覚。それは「監督である自分より敗戦を悔しいと感じている選手はいないんじゃないか」ということだ。「負け慣れ」によって心底悔しがりもせず、自チームにプライドを持っていない選手が多数いるのではないか。こんな危機感が少しずつ大きくなっていた。
 アルタイルズ3年目。軽薄なポジティブ思考でごまかすのではなく、言い訳を排し、自分自身の意志で打ち込んだからこそ負けたら心底悔しさがこみ上げ、勝ったら心が揺さぶられるほど嬉しいと感じる。そんなクラブへとステップアップしたい。


 そう思っていた際にやってきた県高校総体セブンス大会。まさにその感覚を味わうための一歩目になりうるチャンスと捉えた。
 最低限のセブンスのセオリーとマインドセット(心構え)は前日までに伝え、あとは何もかもを選手たちに委ねた。戦術、サインプレー、コミュニケーション、判断、ゲーム運び。私のアドバイスに従った結果の勝ち負けより、全ての決定と責任を自分たちに委ねられて戦い、その結果として手にする勝ち負けと感情を経験してもらうことにした。ゲーム前、ゲーム中、ハーフタイムですら私は口を挟まず、選手たちだけで考え、判断して戦った。

 1試合目、相手は横浜栄高校。「相手を甘く見て油断するなよ」ゲーム前にある選手がそう口にした。裏を返せば、そのセリフ自体がまるで自分たちが格上であるかのような過信に片足を入れているようにも感じた。開始早々、あっさりと先制トライを奪われた。先ほどの言葉からすると、まさかの展開だろう。おそらく不安は増幅していたはずだ。しかしその重苦しい不安感を、自分たちのコミュニケーションと力だけで見事に払いのけた。最終スコアは「40-10」の逆転による大勝。

 2戦目、相手は横浜栄を「54-0」で破った向上高校。キックオフ前から、ほとんどの選手が緊張に押しつぶされた表情だった。分かりやすく心が落ち着かない。目の前の勝負に対し、自分自身のこととして真剣に打ち込んでいるからこそ生じた過緊張。これも狙い通りの経験だ。
 ゲームはまたもリードされてのゲーム展開。後半、強い意志で同点に追いついた。そして終盤。体力と気力が限界に達する時間に、気持ちで相手を上回った結果の「ラストワンプレーサヨナラ独走トライ」。「12-5」で向上高校を下し、Aブロック優勝を見事に成し遂げた。

 緊張、不安、意思統一、責任感と一体感、歓喜、安堵。何かもを自分たちの力で臨んだ大会で、目論見通りの貴重な感情経験を積むことができた。



リョウ(この大会のゲームキャプテン)
まず全勝してすごく嬉しかった。15人制の試合でもアルタイルズとして勝ったことがあまりなかったので、嬉しかった。横浜栄戦は前半、すごくヒヤヒヤした試合で負けるのではないかと思ったけど、後半流れを掴むことが出来勝てた。向上戦は前後半、接戦ですごくいい試合が出来たと思います。
キャプテンとして勝てたのも良かったし、チームとしても勝てたので嬉しかったです。まだ地区セブンスがあるので、しっかり今後の練習を頑張っていこうと思います。』



カイ(勝負所で貫録のラインブレイク)
『今回のセブンスは先生が口出しをしないときっぱり決めていました。練習時間も少ないなか、自分たちで戦術を考え指摘し合いながら試合に臨み勝ったとき、体の底から何か込み上げてくるものがありました。この気持ちを忘れずにこれからも先生に言われる事だけのことでなく、自分たちで考えながら頑張っていきたいと思います。』


ショウ(攻守で献身的に大活躍)
『この大会は全国などにつながるものではありませんが、そんなことはどうでもいいです。みんな常に前向きに最後まで走り続け、リザーブ、1年生の大きな声援も僕達の励みとなり、アルタイルズ全員で勝ち取った2勝、向上高校に勝てたことは次の自信に繋がりました。笑って終わることが出来て良かったです。』


 仲間がそんな気持ちで戦っているということは、チーム全体にも伝播した。昨年まではセブンス大会では、ただ選ばれたメンバーが戦っているだけで、メンバー外は正直他人事のような顔をしていた。しかしこの大会では、ノンメンバーたちの多くが感情を込めてチームのためのできることを考え、心を込めてサポートしていた。
 アルタイルズが最もこだわりたい理想は「ワンチーム」になること。その理想に大きく近づくことができた大会となった。