平塚工科史上初勝利 『25年の想いの上に』

2018/04/08

 勝って歓喜。実はこんな機会は意外に少ない。「歴史の創造」これもキャッチコピーとしては乱発されても、この言葉が相応しいと思える結果は稀有だ。そんな希少な瞬間が、ついに訪れた。
 平成30年4月7日、平塚工科高校ラグビー部としては学校史上初。前身の平塚工業高校時代を含めても、平成5年度以来25年ぶりの県大会勝利を手に入れた。
(県大会=新人戦、関東予選、全国予選の3大会のこと。セブンスや同一校から複数チームのエントリーが可能で交流試合の意味合いが強い県総体は除く。)
 
 相手の合同Eは大磯高校と松陽高校の合同チーム。合同チームという響きで「弱い」と思うのは間違いだ。むしろ人数に余裕ができるので、複数チームの3年生ばかりで15人を固めることができる。どちらかというと、15人程度の人数でギリギリ単独出場しているチームの方が、下級生を多く出場させているため厳しいことが多い。毎年秋には単独で出場しているチーム同士のタッグ。想定は「五分五分の勝負」として臨んだ。
 
 予報通りの強風。いや、暴風か。どんな形でも結果だけが大切な勝負だ。キックオフ前に風下と風上でやるべきゲームメイクを整理した。練習してきたプレーや戦い方を思い切りよく7割は捨て去った。
 風下の苦しい前半、「17点ビハインド」までなら後半で逆転できると想定した。ボールの保持時間を優先し、粘り強く我慢。想定に反し、「10-7」と3点リードで折り返すことができた。

 暴風を背に受けた後半。風を利用したアタックとDFに徹した。数年前「ファイナルラグビー」という言葉が流行った時期があった。「決勝戦のラグビー」つまり、「観客からの見た目や理想を度外視した、勝ちに徹するラグビー」のことだ。
 まさにファイナルラグビーに徹したアルタイルズは、徹底して自分たちの土俵の中だけで戦った。

 特にDFは終始素晴らしかった。相手の得意のFWクラッシュを、ことごとくあちら側に倒し続けた。ラストワンプレー、鬼神のごとくタックルを繰り返すキャプテン・リュウトが相手を激しく倒し、繋いだボールを受けた相手をバイスキャプテン・セイタがなぎ倒した。相手のノックオン。頼れる両リーダーの見事な締めくくりで、歴史的勝利を手に入れた。


 

リュウト
『感激の初勝利!自分がラグビー部に入って公式戦初勝利でした!風がとても強くパスやキックもいつもどおりいかない中で、自分たちのラグビー展開を作ることができたと思います!今日の試合をやって個人やチーム全体が成長しさらにチームワークが強くなったと思います!自分が抽選を引いた日からこの日までに最高の準備ができたと思います!
新一年生20人入れるということと、向上戦勝利を目標に頑張っていきたいです!』
 
セイタ
『今回の試合は実力は五分五分で、こちらが気を抜けば負けるし、しっかりとやってきたことをこなせば勝てると想定した相手でした。この結果は全員がやるべき事をやって得た勝利なので、この調子で向上高校にも勝ちたいです。』

 

 前回の記事にも書いたが、この歴史的勝利は決して内藤組の努力の賜物だけではない。たった二人で部を継承した萩谷と山崎や、その前年に「12年ぶりの単独出場」を果たした先輩たち、勝てなくとも24年間それぞれの想いで諦めずに戦い抜き、部を継承してくださった先輩方の一人ひとりの生きざまが積み重なった上にある結果だ。我々の土台には70年分のOBの皆様の努力とストーリーが存在する。そんな重厚な土台の上で手にした「平塚工科史上初勝利、平塚工業時代含めて25年ぶりの勝利」なのである。
 
 この勝利は、現役チームにとっても大きな起点となるかもしれない。試合中、あるリザーブ選手は露骨に私の横に立ったり視界に入ってきたり、出場意欲を全開でアピールしていた。試合後、あるリザーブ選手は「どうすれば俺はスタメンで出られますか?どうすればもっと長い時間出られますか?どうすれば…」と何度も確認をしてきた。その顔つきは、かつて見たことのないものだった。あるケガの選手は、「今日自分がチームのためにできることは」と考え、自分から次々に雑用を片付け続けた。あるスタメン選手は「もっと練習しよ」と誰にも聞こえない程度の独り言を口にして駅に向かった。
 
 勝つ喜びは、懸けた努力と想いに比例して大きくなる。試合にスタメンで出られない悔しさは、きっと自分への不甲斐なさとして刻まれ、「ついに変わる」きっかけとなる。
 歴史的勝利は、次の章へのスタートラインなのだ。





追記
この試合の5日前、平工に強力すぎるスポットコーチが訪れてくれた。

 大峯功三さん。早稲田大学ラグビー部において1年生からスタメンナンバーエイトを務める。U20日本代表などの経験を経て、4年時はキャプテンとして活躍。現在も早稲田のコーチとして大学日本一を目指し続けている。
 この日のセッションは、約3時間完全に大峯セッション。プレー中の姿勢、ラインアウトの基礎から組織DFまで、試合に向けて平工がいま欲していた内容を完全にカバーしてくれた。

『松山先生、平塚工科高校ラグビー部の皆さん、本日はありがとうございました。短い時間でしたが、皆さんのラグビーを楽しんでいる雰囲気を感じることができ、皆さんに元気をもらいました。
今週末の公式戦では15人が繋がって、チームDFを楽しんでください!』

大峯さん、本当にありがとうございました!またぜひ遊びに来てくださいね!