『豪雨のハッピーエンド』

2017/10/29

 台風接近に伴い朝から豪雨。横浜マラソンはじめ多くのスポーツイベントが中止となる中、平工文化祭招待試合が行われた。先々週の花園予選ではなく、この試合を3年生引退試合と定めていた。勝っても負けてもこの試合で引退。

堂々と校歌斉唱(国際試合ばりの音響付きで) 


 この試合のテーマは『ハッピーエンド』。
 カズマサとショウタロウ。たった二人だけの3年生。威圧感ゼロ。優しすぎる二人。
「きっと24人の下級生の知らないところで、二人は下級生が伸び伸びと自由に楽しむために、我慢したり許したりしてきたはず。気が付かなかったかもしれないけど、きっと何度もさりげない声かけや他愛もない雑談で、みんなの心を支えてきたはずだ。そんな二人のために、明日は身体を張ろう。自分のためでなく、二人が笑顔で満足して最後を締めくくるために、二人の高校ラグビーがハッピーエンドになるために、闘おう。」
 前日のミーティング。全員の目に覚悟が宿った。生意気さが売り?の2年生たちも、天真爛漫な1年生たちも、二人のハッピーエンドのために最高のテンションで一つになった。かつてない領域に、チームが踏み込んだ。

キックオフ前にハカ『カパオパンゴ』を披露。 


 予報以上の豪雨(試合後に確認すると大雨警報に)。試合時間を25分ハーフから20分ハーフに変更した。文化祭招待試合のターゲットは「ラグビーの、ラグビー部の魅力を全開で発信する」だったが、来場者向けの「ラッキーナンバープレゼント」「ハーフタイムゴールキック大会」などは断念し、観客数は晴れの場合より激減した。それでも何とか「マイク実況中継」や、テストマッチばりの「校歌斉唱」「ハカ合戦」などは決行した。浮ついた演出がなくなったせいもあるが、両チームの気迫がみなぎる素敵な空間になった。
 
 1ヶ月前の対戦ではスコアも内容も完敗だった西湘高校相手に、「12-0」で勝利。スコア以上に内容も完勝。本来は抜群のパスワークとBKのサインプレーを駆使して爽快にアタックを仕掛ける西湘にとって、この豪雨は痛手だった。それに対し、平工は「雨ラグビーの鉄則」を理解して貫徹した。ゲーム前に定めた「やるべきこと」「やってはいけないこと」を、見事なほど意識して戦うことができた。

ハカ対ハカ!西湘さんの『カマテ』は迫力満点でした! 

 公式戦ではないが、単独チームとして15人制の試合で他校の1軍に勝利したのは、いったい何年ぶりなのだろう(少なくとも直近の12年間では初?)。
 ノーサイドの笛が鳴り響き、二人の高校ラグビーの最後は、ハッピーエンドで締めくくることができた。

 

 ショウタロウは、病気やケガで最後の1年間は9割以上の期間、全くプレーができなかった。病院のベッドで何を考えていたのだろう。度重なる逆境や苦しみにも、笑顔を絶やさず乗り越えた。爽やかで温和な人柄と真逆の如く、逃げず、流されず、不撓不屈の精神力で何度でも立ち上がった。
 
 キャプテンのカズマサは、ショウタロウが部から離れていた長い期間、たった独りぼっちの3年生だった。優しく常に控えめな性格。しゃべりはめっぽう苦手。自分に非がなくとも、四方八方から言われ放題…。きっと多くのことを一人で背負いこみ、耐え抜いてきた。同時に、誰をも黙らせるほどの突出したプレーでチームを引っ張った。不言実行。本能が如く身体を張り、試合中は誰もが頼れるキャプテンの背中を追いかけた。
 
 70年に迫る平工ラグビーの長い歴史の中で、たった2人きりの厳しい代。辞める理由は、きっといくらでも思いついたはずだ。消えてなくなってもおかしくなかった伝統の灯を、立派に後世につないだ。

 

カズマサ
『昨日の試合でまず感じたことは、自分達が3年間部活をやってきて初めての勝利で、とても嬉しかったということです。自分達は人数も少ない時があり、試合も合同チームなどあまり満足に試合などは出来ていなかったのですが、自分達の最後の試合で自分達の学校だけで初めて試合に完勝で勝てたということは、とても思い出に残りました。
 
 3年間やってきた中で色々な事がありましたが、部長をやれたということは今いい経験をさせて頂きました。ショウタロウが本当は部長になるはずで、自分は全然そんな気は無かったのですが、ショウタロウが病気にかかってしまい、急遽部長をやらしてもらいました。自分はみんなを引っ張っていけるタイプではないのですが、2年生はみんなを引っ張って行けるタイプです。自分が部長をやっていていいのかというプレッシャーを毎日感じていたのですが、松山先生から「無理に自分の性格に合わない事をやらなくていい」と言ってもらって、少しでも自分のできることを探して頑張ろうという考えになり、自分なりに部長として頑張れたと思っています。
 
 最後のミーティングであまり喋れなかったのでこの形になりますが、少し書かせてもらいます。自分は1年生の時に肩が外れやすいということが分かり、1年間ラグビーを出来ていませんでした。なので先輩や将太郎と距離が離れているように感じていました。2年生の時にリュウトやセイタが入ってきて、本当は1年生に教えなければいけない立場なのに何もしていなかったので教えられず、この先自分は先輩としてやって行けるのか凄く不安でした。そして3年生になり、自分が部長になることになり、本当に何をしていいのか分からず2年生と一緒に練習を考えながらやっていました。

最後の練習は校歌で締め。
 4月になり松山先生がラグビー部の顧問になって1年生が今まで考えられないくらい入ってきて、これからこの人数を引っ張って行けるのか気にしていました。ですがビッグブラザー制度ができて、2年生に助けてもらいながら一年間部長をやり続ける事ができました。松山先生だけでなく、小田先生や黒川先生はじめ多くの方からもご指導をいただき、感謝しています。
 本当に頼りない部長で2年生に任せることが多くてあまり喋らない部長だったけれど、3年間ありがとうございました!!
 
後輩達へのメッセージ
 自分は3年間ラグビーをやってきて一番大きかったことは性格が1年生の頃と比べて大分変わったことと、友達がたくさん増えたことです。性格はラグビーをやるまでは内気でほんとに喋らない性格だったのですが、ラグビーをやることで自分から喋ることやコミュニケーションをとることができるようになりました。また他の高校と試合が終わった後に仲良くなり、次に会う時は話し合えるということが多々ありました。

 また、自分は自信がないプレイヤーでしたが、人に負けない部分が全員1
つは絶対あります。なのでその1つを見つけて自信を持ってラグビーを続けて欲しいです。またこれからどんどんラグビー部は大きくなっていきます。人数は多ければいい事ですが、その分試合に出れない人がでてくると思います。なので試合にでる人は誇りを持って戦ってほしいです。またアルタイルズというチームが何故あるのか、どんな思いで作ったのかを忘れないように、入ってくる1年生達に伝えて言ってほしいです』

 

ショウタロウ
『2年間ありがとうございました。この伝統ある平塚工科高校のラグビー部だったことを、本当に誇りに思います。カズマサとショウタロウの二人が平塚工科のラグビー部だった。なんてことは平塚工科の歴史にしてみれば、ほんの一瞬にも満たないと思いますが、僕達に取っては本当に掛け替えのない、時間でした。先輩たち、先生たちなど今まで関わってくれた全ての方に感謝しています。

 そして、私のラグビー人生を更に色濃くしてくれたのは、松山 吾朗 という一人の人間であり、先生でした。私は2年生最後の大会が終わったあとに病気でしばらく病院での生活を余儀なくされました。そして、お医者さんからはスポーツをやるのは一年くらいやめた方がいいと言われ、今までやってきたことや、先輩から託された思いが、一瞬で崩れたような気がしました。そして、半年後今まで止まっていたはずのラグビーLIFEに転機が訪れました。それが、松山 吾朗でした。
 もし神様がいるのなら神様を感動させるだけの、何かが平塚工科のラグビー部にはあったのかも知れません。その先生のおかげで、再びラグビーをやることが出来ました。本当に、感謝しかないです。
 
そして後輩へ
 絶対に後悔しない毎日を送ってください。
 家族と友達はあなたが死ぬまでの宝物です。大切にしてください。
 相手の罪を許してあげられる優しい人になってください。
 辛いときこそポジティブに。その時はあなたが試されている時です。簡単には負けないで。それに抵抗し続け乗り越えて!
 人生は良いこと悪いことプラマイゼロだとよく聞きます、良いことをすればきっと自分にプラスに還ってきます。私はそう考え信じています。 
 今まで本当にありがとうございました。』

ノーサイドの瞬間、敵は仲間であり同志となる。西湘さん、ありがとう! 


 堂々と胸を張って二人は引退。想いは次代へ託された。
最後の試合、アルタイルズは何より大切な経験を積むことができた。
『人間、自分のために出せる力など、たかが知れている。自分がこれくらいでいいやと思えば、それくらいで妥協も逃げもできるから。だけど、誰かのためにと覚悟を決めることができたなら、自分を超えた最大の力を発揮することができる。自分のためなら逃げたところでも、誰かのためなら、喜んで立ち向かうことができる。』
 これが、高校ラグビーを通じて最も体験してほしいことだ。「自己犠牲の精神」というと、我慢が伴いそうで重苦しい。むしろ「この仲間たちのためなら、よろこんで!」がしっくりくる。
このゲームで体験した感覚は、決して忘れてはならない。

 

 翌日のミーティングで平工アルタイルズ新チーム「内藤組」が始動した。二人がつないでくれた70年分の想いを背負い、組織も戦績も飛躍していく。
 アルタイルズの名前に込めた意味は、「想い強ければ 願いは叶う」。
 そのために必要なのは、思考、有言実行、継続、笑顔、友情だ。