初の菅平合宿 『自ら考え、動く』

2018/08/10

 日本ラグビーの聖地・菅平。その文化に一度魅せられると、この山々が神々しいと思える。2018年8月6日、アルタイルズは平工ラグビー部史上初の菅平合宿を行った。

合宿1日目

 7時。バス乗車前にこの合宿の一番の目的が「チームワーク強化」であり、そのために「集団規律」を徹底することを確認した。もちろんチームワーク強化のためには、コミュニケーションも大切なので、「合宿中はスマホゲーム厳禁」を告げた。その甲斐あってか、バスの中はレオ中心に「なぞなぞ大会」。心が和むいい雰囲気でバスは進んだ。
 12時菅平着。初めてお世話になる城山舘にチェックインし、グランドに向かった。

 合宿初日の相手は芝浦工大附属柏高校。3年生が18人という充実の代。対する平工はスタメンに3年生は3名のみ、2年生が8名、1年生が4名という若い布陣。苦しい展開になることは覚悟していた。
 結果から言うと惨敗。アタックを継続できた時は自分たちのスタイルでプレーできたが、最後のブレイクダウンで相手の圧力に勝てず、スコアできなかった。DFについては新しく挑戦しているシステムの未熟さからラインブレイクを再三許し、大量失点を喫して敗れた。こちらのDFに対する相手のアタック選択は非常に的確で、勉強させてもらった。

 もっとも残念だったのはゲーム後のAチームの姿だ。あれほどズタボロにされておきながら、惨めとも悔しいとも思わなかったのだろう。負け慣れとは恐ろしい。Bのゲーム中も地面に座ってしゃべっているばかりで、一向に練習しようともしない。かといってBのゲームの手伝いをしている訳でもない。

 勝敗という結果にとらわれず、成果や修正点を明確にすることは確かに必要だ。感情に走って理を忘れ去っては、単なる演劇だ。しかし、感情で心が突き動かされなくなったら、もはや勝負の世界で生きるべきではない。屈辱を屈辱として受け入れ、砂を噛み地面を叩き、不甲斐ない自分と決別すべく己をたたき上げる。敗れておいて薄っぺらいポジティブな理屈をこねるよりも、「情けねぇ」と涙して一人きりで走り込みやタックル練習に打ち込む人間にこそ、光の射す未来は開ける。

 今は「負けシボリ」などという時代ではない。合理的な分析に基づく練習が必要だ。しかし、特に相手との格闘、自己との対峙の連続であるラグビーにおいては、最後は強烈な感情で自分を突き動かせる人間こそがチームを勝利に導ける。
 残念ながらこの日のAは全員が口先だけの人間だったと言わざるを得ない。ゲーム後の姿が、執念なきDFで相手からズタボロに切り刻まれた理由を表していた。

 Bのゲームの直後、そんな話をしたのちに「帰りのバスまであと25分ね」と余地を与えてみたのに、やっぱりAは練習しようとせずに後片付け。もうAは無視して、素晴らしい雰囲気でゲームを勝利したBのみでアフター練習を行った。
 やらされる練習に効果は薄い。「恐怖と義務で動かす」アルタイルズはそんなクラブではない。自分で自分を突き動かすこと。考え、(一人きりでも)行動すること。今のAは「言われたことはやります」のみで、考える意欲も行動の意欲もないのだろう。合宿初日、そんな大きなテーマに直面した。



合宿2日目
 6時散歩。近くの駐車場で体操と目覚まし程度の軽練習。朝食の後に、午前の試合、県立千葉戦に臨んだ。グランド調整でズレがあったらしく、ウォームアップ途中で試合会場が別のグランドであることを知り、急きょ移動した。


 9時45分キックオフ。昨日の課題を克服すべく臨んだゲームだったが、ブレイクダウンに関してはかなりの改善が見られた。しかし「ゲームの運び方」や「エリア獲得法」については、相手の方が遥かに準備されていた。本来は菅平に上る前に様々な状況でどうゲームを運ぶかを整理しておくべきだったが、残念ながらインターンシップや会社見学で全く人が揃わず、菅平で全員揃うまで着手できなかった。まさにそこで後手を踏み、キック差の「12-14」で敗れた。同時に、リーダー陣のゲーム理解を早急に高める必要性を感じた。

 Bについては、前日のベストゲームをさらに更新し、「36-12」の快勝。レオや翔太が作り出すポジティブな空気はプレーに活力と躍動感を与え、全員が生き生きとゲームを楽しんでいた。見事なゲーム。最も評価すべきは、つい2日前までは全くゲームが成り立たないほどのレベルだったBチームが昨日のゲームを機に急成長し、そしてこのゲームの最中にも分ごとに上達していったことだ。

 前日の大きな課題「自分で考えて自分で動く」は未だ変化は少ない。練習の準備や片付けなどでも、流れに乗っているだけで自ら考えて生きていないから、色々小さな問題が生じていることにすら気づかない。気づきかけても「誰かがやるのかなぁ」「マネージャーかけが人がやってくれるのかなぁ」程度で誰も動かない。

 東福岡、東海大仰星、御所実業など高校ラグビーの最高峰のチームが「日常生活で小さなことに気づき動くことができない者が、試合でいいプレーをできるわけがない」と、グランド外のごく小さなことにこそ目を向けている。整頓・清掃・気遣い。荷物がきれいに並んでいないこと、ゴミが落ちたままになっていること。説教やモラルなどといった重苦しいことを課しているのではなく、ただ日本一になるために、ラグビーでいいプレーをするために、どんな自分とどんなチームであるべきかを追求している。


 午後は菅平初の練習。午前のポイントになった「ゲームの運び方」について、2時間近く集中して整理した。誰もが痛みを抱えるが、非常にいい空気で理解を深めていった。
 夜のミーティングはAB時間を分けて、選手だけで映像を見ながら課題と解決策について共有した。いい雰囲気でミーティングを終えて各自部屋に戻った。ただし、自分たちが脱いだスリッパは乱雑。ミーティング中にそっと私がきれいに並べておいたことに誰か気づいただろうか。勝手な想像だが、同じ宿の御所実業ならスリッパが2cmでもずれていたなら、選手たち自身が許さないのだろう。



県千葉のトトロと平工のトトロ


3日目
 この日の午前中は練習。午後に予定されていた最終戦は、東北大会優勝、全国選抜ベスト16の超強豪校・黒沢尻工業と、東京都ベスト8入りを果たした早大学院。もしも両校の
ABチームとの対戦になったなら初日の惨敗どころではない苦難が予想された。

 しかし、このマッチメイクの過程で先方側に勘違いが生じていたらしく、前夜の電話でゲーム予定は急きょ変更となった。

 結局、最終戦の相手はアルタイルズAB対黒沢尻工業のCD。正直、身の丈に合った相手との一騎打ちとなった。CDとはいえ全国ベスト16の強豪校のCDだ。間違いなく基礎プレーや身体作りは徹底されており、決して楽な相手ではないはずだ。とくにアルタイルズBという1年生ばかりのほぼ初心者集団にとっては、きっと厳しいゲームになる。
 散歩、朝食の後に午前中は練習。午後のゲームに向けて、リラックスしつつも抑えるべきポイントは全て抑え、やるべきことを整理した。もちろん、三つ巴が変更になり、相手がCDであることはまだ告げず、緊張感(1年生にとっては不安感?)を保った。

 宿に帰って昼食の後、休むこと僅か30分で午後の試合へ出発(急な予定変更で試合時間も2時間早まった)。グランドで動き始めるや否や、黒沢尻が到着した。相手の体形やオーラが気になる選手たち。タイミングはここしかない。集合してこれからの試合が黒沢尻だけであることと、CDであること、そしてこれが合宿最後のファイトであることを告げた。
 想定通り、選手たちのテンションは上がり、顔色も眼光も変わった(ごく数名は逆に緊張してしまったが・・・)。

 Aのゲーム。硬さでミスはあるものの、おおむねこの合宿の成果はアタックにもDFにも現れた。接点・格闘の部分で勝つというテーマへのチャレンジが無用のペナルティーを何度も生み出して苦しい展開を招いたが、「27-10」の勝利。A最終戦を初勝利で締めくくることができた。

 特筆すべきは、練習試合にも関わらず公式戦の接戦を想定した判断をリュウトがしたことだ。12-5の前半ラストプレー、PKを得ると「ショット」を選択し、15-5にリードを広げた。練習試合なのにショットで3点を獲得しにいったチームはかつて見たことがない。しかしこの試合をおそらく「決戦の練習」と自分で位置づけていたのだろう。

 ラストワンプレー。残り時間をレフリーに確認すると、攻めることなく真横にタッチキックを出し、淡々と勝利を手にした。これもおそらく相手は「え?練習試合なのに?」と驚いたことだろう。ペナルティーでショットを選択したことも、最後に真横のタッチキックでゲームを終わらせたことも、これが公式戦だとしたらまさに的確な選択だ。
 最も価値があるのは、このゲームに対して私から何の指示も価値づけの助言も得ることなく、キャプテンの意思でこのゲームを「公式戦の接戦のリハーサル」と位置づけて組み立てたことだ。リーダー中心に「選手たちが自ら考え行動できるチーム」。図らずしてこの合宿のテーマになったが、オンザピッチで成長を証明した。


 続くB戦は、想定通りか相手の方が明らかに洗練されていた。半数近くがCのゲームから引き続きのメンバーだったこともあり、実力差は明白。必死で食らいつくも「5-22」で敗れた。しかし、何本トライを奪われてもBの心は折れず、特定のリーダーだけでなく本当に多くの選手がポジティブな声を出し続き、チームメイトを鼓舞し続けた。
 同じ展開がAに訪れていたとしたら、同じような空気にはならず、悲壮感漂う大敗の図になっていたかもしれない。接戦を制した初戦、完勝の2戦目、大敗の3戦目、全くぶれずに仲間がポジティブにチャレンジできる空気をみんなで作り出したBは素晴らしかった(だからもう少し平工でちゃんと練習しよう!)。

 3時に宿到着。当初のゲーム予定だったこの時間から豪雨。強運だ。今日は夜のミーティングを行わず、明日の最終日はダボスでお楽しみ程度の練習か雨で中止かのどちらかだと伝えた。選手たちの心はついに解放された。
 台風予報の影響で残念ながら打ち上げBBQはできなかったが、食堂での夕食の雰囲気も軽快。頭の中は合宿最後の夜をいかに楽しむかだけ。選手の立場からすると、最高の夜だろう。夕食後には雨も上がっていた。

日帰りで参加してくれた金本さん。


4日目(最終日)
 台風は見事に東に急カーブ。合宿前の週間予報では初日以外は全て強雨を覚悟していたが、終わってみれば雨無しで最終日を迎えるができた。

 朝食、掃除、チェックアウトの後、菅平のシンボルとも言えるダボスの丘へ。濃霧の中、合宿の終了を意味する「学年別ランパス」1本。最後は記念碑の前で校歌を斉唱し、充実感溢れる雰囲気で合宿を締めくくった。





リュウト(キャプテン)
『菅平合宿に行ってまいりました。去年は日帰り弾丸ツアーでしたが、今年は3泊4日で行くことができました!他校との洗濯機の争奪戦、知らない人でもすれちがったらみんな挨拶をするなど、全てがとても新鮮で楽しかったです!宿内では他校の人と話したりすることができ、友達も増えました!今回の合宿でチームの輪がまた縮まったと思います。
 今回一番大きな課題であった考えて行動する事を、これからはしっかり意識して生活していきたいです。一生忘れることのない最高の思い出になりました!ありがとうございました!!』


セイタ(バイスキャプテン)
『今回、初めて菅平に泊りがけで合宿に行くことになり私は3年生なのでこれが最初で最後の合宿になりました。他校との試合もこんなに連戦することは初めてで、最初の2校には私たちなりの良いラグビーをすることが出来ず、負けてしまいましたが、最後の試合ではその負けを生かし、勝つことが出来ました。
チームとしてのレベルアップも感じ、チームメイトとの仲も深めることが出来たのでとても良い合宿になったと思います』


ツバサ(マン オブ キャンプ)
『初めての合宿で私は色々な面で大きく成長できました!まず、先生が最初に言っていた合宿の目的、コミュニケーションをとること。プレーでは、ディフェンスラインを何回も破ることができて、精神的にも肉体的にも成長できました。
先生が言っていたコミュニケーションもたくさん取ることができ、目的に沿った合宿になったと思います。この合宿での経験を次の試合などで活かしていきたいと思います!!』

ヒイロ(FW賞)
『今回初めての合宿で菅平に行ってみて、普通ではなかなか体験出来ない3日連続での試合、行くまでに時間のかかるグランドでの練習、街ですれ違う人へのあいさつなど様々なものが新鮮でいい経験になりました。いまだに試合には慣れていなく多くの改善点が見つかったので、これから個人やチームでの改善点を直していきたいです。』   
 


ヨシキ(BK賞)
『今回の合宿は去年と違って3泊4日でそのうちの3日間が試合でした。初日と2日目の試合は自分のコミュニケーション不足で負けてしまいチームにすごく迷惑をかけてしまいました。3日目の試合は花園常連校の黒沢尻とやり勝ちました。Cチームでしたがとても強かったです。
今回の合宿でチームメイトとの絆を深めることができたのでとてもいい時間でした。自分には課題ができたのでその課題を次の練習から頑張っていきたいです。』


 平工初の菅平合宿は、トータル3勝3敗で終了。掲げた目標「チームワーク強化」はおそらく十分に達成した。そして「自ら考え行動できるチーム」という大きなテーマについて、これから変わっていくきっかけを掴むことができた合宿だった。

最終日のスリッパの状態


 内藤組の最後の闘い・花園予選まであと2ヶ月。間違いなく、あっという間に最期を迎える。そのとき、内藤組はどんな集団になっているのか。どれだけ素敵なチームになれているのか。
 まだチームは変われる。まだ自分は変われる。



3年生

2年生(イッペイとソウタはケガで合宿欠席)

1年生(コウタはケガで合宿欠席)





ブログコーナーに「マネージャー菅平合宿日記」を近日中にアップします。
生徒目線のゆる~いタッチの文章を写真をお楽しみに!